製造業や卸売業、小売業などを営む企業では、売上に対する物流コストの比率を見直すことが、そのまま収益力に反映します。
「物流コスト」の削減は収益に直結していると言えますが、物流過程の『保管・輸送・荷役・包装・流通加工・システムなど』の、どの段階に問題があるかを精査しない限り、コスト削減の対策を考えることはできません。
コスト削減を試みようとして無闇に方法を変えてしまうと、前後のプロセスに皺寄せが生じ、かえって仕事が増える場合もあります。
ここでは、物流コスト削減のアイデアとして参考になる成功事例をご紹介します。
それでは見ていきましょう。
物流コストとは
物流コストは文字通り物流業務に係るコストのことです。
しかし、単に配送にかかる運賃を指すものではありません。
物流コストとは、モノが移動する際にかかるコスト全般を指します。
物流コストの分類は、いくつかの切り口に分類することができます。
例えば「支払形態別」や「物流プロセス別」に分類することができます。
【物流コストを支払形態で分類】
支払物流費 | 外注先に支払う物流コスト。トラックや鉄道の運賃、倉庫の賃料、社外に委託した梱包料などが該当する。 |
自家物流費 | 自社内で発生する物流コスト。人件費やシステム管理費、倉庫維持費、トラックの修繕費などが該当する。 社内物流費と呼ばれることもある。 |
【物流コストを物流プロセスで分類】
調達物流費 | 原材料の調達にかかったコスト。 |
社内物流費 | 社内業務にかかった物流コスト。 |
販売物流費 | 製品を販売するときにかかったコスト。 |
その他にも機能別に物流コストを分類することもできます。いずれにしても、単に配送にかかった運賃だけではなく、これらの合計が物流コストになります。
物流コスト比率とは
物流コストを考慮する上で、最も重要なのが「物流コスト比率」です。物流コスト比率とは、売上高に占める物流コストの割合を指します。
公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会が発表した「2020年度物流コスト調査結果」によると、全業種平均の売上高物流コスト比率(=物流コスト比率)は5.38%でした。
2019年度から0.47ポイントの増加となり、この上げ幅は直近20年間で2番目の大きさです。
売上・物流コスト比率は、人手不足による輸送費、荷役費の値上げなどにより大きく上昇しました。
このことを示すように、回答企業の83.0%が輸送費・荷役費をはじめとする何らかの値上げを要請されたと回答しています。
ちなみに新型コロナウイルス感染症流行の影響は限定的とされています。
なぜなら、データ対象期間を直近の決算期としているので、2019年度(2019年4月~2020年3月)の回答が全体の2/3を占めるためです。
人手不足による輸送費などの値上げは、2020年に限った事ではありません。年度により多少のばらつきはあるものの、近年の物流コスト比率は上昇傾向にあると言えます。物流コスト、物流コスト比率をいかに抑えるかが、企業にとっての経営課題のひとつと言えます。
参考:2020 年度 物流コスト調査報告書【概要版】|公益社団法人日本ロジスティクス システム協会
物流コストを「見える化」することの重要性
物流コストは経営上捉えにくい概念です。
なぜなら決算書の貸借対照表や損益計算書には「物流コスト」という勘定科目はありません。
物流コストは多くの場合「販売管理費」や「製造原価」に組み入れられています。
経営トップも、これではどこの・どのコストをカットすべきか判断がつきにくいことでしょう。
このような面から、物流コストの削減を検討するとき「輸送費用を見直せばよい」と短絡的に考えてしまいがちです。
さらには、物流会社に値下げ交渉することが物流コスト削減の一丁目1番地であるかのような思い違いを起こしかねません。
しかし、輸送費は物流コスト全体から見ればほんの一部に過ぎません。事実、物流には保管、輸送、荷役、包装、流通加工というプロセスがあり、その工程ごとに解決すべき課題があります。
人的コストの見直しや在庫管理の適正化、業務効率の改善に加え、全体を統括する情報システムの見直しも考慮する必要があります。
物流コストを削減するためには、こうしたプロセス毎の課題を洗い出し、コストを「見える化」するところから始める必要があります。
物流コストの内訳
物流コストの見える化するためには、コストの内訳を把握することが重要です。
物流コストを機能別に分類すると以下の5つになります。
【物流コストを機能で分類】
- 運送費
- 保管費
- 荷役費
- 管理費
- 人件費
各項目の概要は次の通りです。
運送費
運送費とは「モノを運ぶとき」にかかる物流コストです。具体的には、「宅配事業者に支払う配送料」「チャーター便の運賃」「自社便の運賃」「航空便の運賃」などが該当します。
代表的な物流コストと言えます。
運送費の見える化はそれほど難しいものではありません。
前述した「2020年度物流コスト調査結果」によると、機能別に分類した物流コストの中で運送費(=輸送費)の構成割合は55.2%でした。
物流機能別構成比の中で最も高い割合でした。
物流コストの削減を考えるときに、最初に見直したい項目です。
保管費
保管費とは「モノを倉庫などで保管するとき」にかかる物流コストです。具体的には「営業倉庫の賃借料」「借用倉庫の借用料」「保管しているモノの管理にかかる保管料」などが該当します。
自社でモノを保管する場合と、他社に依頼しモノを保管する場合で、保管費は当然異なります。
「2020年度物流コスト調査結果」によると、機能別に分類した物流コストの中で保管費の構成割合は15.7%です。
運送費に次ぐコスト割合となっています。
物流コストを見直す場合は、モノの保管方法を最適化する必要があります。
荷役費
荷役費とは「荷役作業」にかかる物流コストです。具体的には「モノを倉庫に入庫するときにかかる費用」「モノを倉庫から出庫するときにかかる費用」「モノを梱包するためにかかる費用」「シール貼付けやタグ付などにかかる費用」などが該当します。
荷役費は作業量と密接に関わります。
作業の効率化により圧縮を図る必要があります。
管理費
管理ひとは「物流を管理する」ためにかかる物流コストです。具体的には「物流システムや受発注システムの導入費」「運営費」などを指します。
システムの導入には高額な費用がかかるうえ、導入したシステムは簡単に変更できません。
システム導入は計画的に管理・運営する必要があります。
人件費
人件費とは物流に関わるスタッフの人件費です。具体的には「物流担当者の給与」などを指します。
簡単には削減できない物流コストです。
繁忙期と閑散期で必要な人員に差がある場合は、人員管理を合理的する必要があります。
物流コストが膨張する主な要因
では、物流のコストが膨らむ要因はどこにあるのでしょうか。
もし、下記の問題が自社の物流プロセスにあるなら、より効率化できる方法を考慮する必要があります。
人為的なミスが多い
ピッキングミスや配送先の間違いなど誤出荷が多いと、クレームが生じるばかりか後処理にムダな手間暇がかかります。
この場合はヒューマンエラーを解消する施策が必要です。自社で改善が難しい場合は、こうしたプロセスを信頼できる専門業者にアウトソーシングさせることも可能です。
工程管理ができていない
入荷から出荷までの工程で誰がいつ、どこで、どんな作業をしたのかを管理及び追跡できなければなりません。
工程を管理・追跡できなければ、現状分析が難しく、現場にフィードバックして課題解決が図れません。
全行程を俯瞰できる情報システムを導入し、現状を打開する必要があります。。
現場に「ムリ」「ムダ」「ムラ」が多い
キャパシティを作業量が上回っている状態が「ムリ」。キャパシティより作業量が少ない状態は「ムダ」。ムリとムダが様々なタイミングで繰り返される状態が「ムラ」です。
ムリ・ムダ・ムラをなくし、作業量とキャパシティを均衡させるためには、作業を単純化する必要があります。
単純化された環境では、作業がスピードアップし、ミスが減り、しかも人員を最小限に抑えられます。
そして、作業動線を見直すことによるムダな工程を排除することも大切です。
また、自社の物流コストを見直さなければならないとわかっていても、次の理由から適切な経営判断ができないことも多々あります。
- 企業文化の問題:従来とは異なる手法を取り入れるのに抵抗がある
- 組織的な問題:他部門からの抵抗が想定されるため物流に手を入れられない
- 専門性の欠如
・適正な物流コストについて十分な知見がない
・専門的な立場から物流改革をけん引する人材がいない
こうした問題を抱えている企業では、物流コストを削減する取り組みに着手できないため、事態はより深刻だと言えます。
物流コスト削減に成功した企業の施策例
ここからは、物流コスト削減に成功した企業の施策例を紹介します。
自社の状況と比較分析して、活用できるアイデアを導入してみてはいかがでしょうか。
アイデア1:輸送費・倉庫保管料・倉庫作業料の単価を見直す
ある企業は、輸送費・倉庫保管料・倉庫作業料の単価を外注先と交渉する、外注先を変更するなどで、物流コストを削減しました。
前述した「2020年度物流コスト調査結果」によると、輸送費と保管費の割合は物流コスト全体の70.9%を占めます。
見直し幅はわずかでも物流コストを大きく抑えられる可能性があります。
アイデア2:分散している拠点を集約する
ある企業は、日本全国に分散していた拠点を集約することで物流コストを削減しました。
拠点の集約は、賃料や管理費などを圧縮でき物流コスト削減につながります。
ただし、拠点数を集約し過ぎると配送距離が伸び、運賃は高くなる可能性があります。
緻密なシミュレーションを行ったうえで取り組みたい施策といえます。
アイデア3:現場の作業効率アップで堅実にコストを削減
ある企業は、現場の作業効率を改善することで物流コストを削減しています。具体的な取り組みは以下の通りです。
- 輸送:運行管理の把握による積載率の向上、空走時間削減による実車率の向上
- 保管:積み方・保管方法の見直し
- 倉庫作業:倉庫レイアウトの変更による作業効率の向上
- 作業環境:5S活動の徹底による作業効率の向上
ひとつひとつの取り組みに劇的な効果を期待することは難しいですが、堅実に取り組むことで物流コストを削減できます。
アイデア4:物流管理システムの導入
ある企業は、物流管理システムを導入することで物流コストを削減しました。
物流のプロセスを一元管理し、配車管理などを自動化することにより、次のメリットを得ました。
【物流管理システムのメリット】
- 各工程のミスを減らして作業効率を向上
- 各工程を最適化して人的コストを削減
- 業務の効率化による倉庫回転率の向上
物流管理システムの導入は、効果的な物流コスト削減の施策になります。ただし、システムの導入費・運営費には少なからず費用がかか流ので、費用対効果を考慮しなければなりません。
アイデア5:業務をアウトソーシングする
ある企業は、業務をアウトソーシングすることで人件費や倉庫の賃料などをカットして物流コストを削減しました。
【物流をアウトソーシングするメリット】
- 物流コストを見える化できる
- 本業に集中できる
- 業者がトラブルに対処してくれる
場合によっては非常に有効な方法となります。
ただし、委託費がかかるためすべての企業で物流コストの削減につながるわけではありません。
アイデア6:コンサルタント会社に相談する
ある企業は、物流専門のコンサルタント会社に相談することで物流コストを削減しました。
物流専門のコンサルタント会社は、ロジスティックという物流全体を最適化する考えに基づきシステムを変更することで物流コスト削減します。
自社だけで改善の余地を見出せないときにおすすめの施策です。
アイデア7:知識習得してコスト問題を解決
ある企業は、物流に関する知識を得て物流会社と協議することで物流コストを削減しました。
具体的には、物流会社に自社のコスト構造と問題点を明らかにして、物流会社から効率化の方法を提案してもらうことで物流コスト削減につなげています。
人手不足などの影響で単価を引き下げられないときに有効な施策と考えられます。
アイデア8:現場の作業効率アップで堅実にコストを削減
各プロセスの作業効率を上げることもコスト削減には欠かせません。
ある企業では、以下のような業務改善によって、現場レベルでの物流コスト削減を実現しました。
輸送:積載率、回転率、実車率を高める取り組みを実施
保管:積み方、保管方法を改善
倉庫作業:倉庫内レイアウトやピッキング方法の変更、情報システムの再構築
作業環境:従業員には「5S」を徹底させることで作業環境を適正化
物流コスト削減のまとめ
ここでは、物流コストの「運送費」「保管費」「荷役費」「管理費」「人件費」を見える化することにより、物流コストが膨らむ要因を浮き彫りにしました。
そこで、物流コストを削減する施策例として、
- 輸送費・倉庫保管料・倉庫作業料の単価を見直す
- 分散している拠点を集約する
- 現場の作業効率アップで堅実にコストを削減
- 物流管理システムの導入
- 業務をアウトソーシングする
- コンサルタント会社に相談する
- 知識習得してコスト問題を解決
- 現場の作業効率アップで堅実にコストを削減
を紹介してきました。
自社の物流コストと比較分析して、活用できるアイデアを導入することを検討してみてください。