荷主とは、自分の貨物を輸送業者に依頼して運んだり、保管してもらったりする人のことです。
この記事では「荷主や輸送における法的規制」について解説していきます。
荷主とは?
物流業務における荷主は、商品の輸送や保管をお願いする人を意味します。
商品を発送する人を発荷主、受け取る人を着荷主と呼びますが、物流業では発荷主を荷主と呼ぶケースが多いです。
省エネ法においては、荷主は以下の3つに分けられます。
- 一号荷主…改正省エネ法第105条の第1号に定義されている貨物輸送業者と契約して貨物を輸送させている事業者のこと
- 二号荷主…改正省エネ法第105条の第2号で定義されている契約はしていないものの貨物の輸送方法を決めている事業者のこと
- 準荷主…受け取りに関して日付や場所を指示できる立場の事業者
単に荷主といっても様々な意味があるため、文脈によってどの荷主なのか判断するとよいでしょう。
省エネ法における特定荷主の義務内容
特定荷主とは、貨物輸送量が3,000万トンキロ以上を取り扱う荷主のことです。
省エネ法における特定荷主には、以下の3つの義務があります。
- 貨物の輸送届出書の提出
- 中長期計画の作成
- 定期の報告
貨物の輸送届出書の提出
特定荷主は、貨物の輸送量届書を地域の経済産業局長に提出する義務があります。
提出は、新しい年度に3,000万トンキロ以上になったときに提出します。
貨物の輸送届出書は初回のみの提出で、提出期限は4月末日です。
様式は指定されており、経済産業省資源エネルギー庁のホームページから確認可能です。
中長期計画の作成
中長期計画の作成は、年に1回経済産業大臣と事業所管大臣あてに提出しないといけません。
期日は毎年6月末までで、電子申請も可能です。
なお省エネ取組の優良事業者は、中長期計画の提出が免除になります。
中長期計画の作成を軽減したいときは、免除の条件を満たしているか確認のうえで、対応するとよいでしょう。
定期の報告
定期の報告は、経済産業大臣と事業所管大臣に年1回毎年6月末日までにおこなわなければなりません。
定期報告書作成支援ツールが経済産業省資源エネルギー庁のホームページに用意されているため、活用するとよいでしょう。
なお計画の作成や定期の報告をおこなわなかった場合は、罰金が科せられる可能性があります。
荷主会社となるのはどのような会社?
荷主会社となるのは、
- メーカー
- 商社
- 問屋
- 販売店
など幅広い業界や業種が挙げられます。
例えばメーカーが運送会社に工場へ貨物の輸送を依頼すると、メーカーは荷主会社といえるでしょう。
また運送業務の依頼を受けた元請け運送会社が、下請けの運送会社に発注すると元請けも荷主です。
物流事業者に委託すると、荷主と物流事業者という立場になります。
運送において荷主がすべきこと
運送において荷主は、以下の3つを意識しなければなりません。
- 運送員目線の働き方改革
- 運送の効率化
- 価格ではなく価値の重視
運送員目線の働き方改革
荷主は、トラックドライバーや作業員が安全に業務がおこなえるように働き方を改革する必要があります。
2019年7月から施行された改正貨物自動車運送事業法では、荷主は運送員の安全配慮義務があると定められました。
運送員の人材不足が叫ばれ続けていて、一人一人が対応する業務量は増えています。
荷主が無理な発注をすると、交通事故や作業時のトラブルが起こるかもしれません。
働き方改革は、運送員と荷物の安全につながります。荷主は余裕をもった運送計画を立てる必要があるでしょう。
運送の効率化
運送の効率化を目指すことも、荷主に求められています。
国土交通省は、有識者会議を参考に物流プロセスの効率化に関連する法の改正を検討中です。
2024年にはドライバーが大幅に不足すると予想されており、
- ドライバーの待機時間野の軽減
- 物流の平準
などが急務となっています。荷主に取っても運送を効率的にすることで、
- 中ロット貨物の輸送がスムーズになる
- 安定的な輸送を確保できるようになる
- 環境に配慮した取り組みができる
などのメリットがあるでしょう。
荷主の経営にもプラスになるため、共同輸配送を検討する企業も増加しています。
価格ではなく価値の重視
荷主が価格だけを追い求めていると、運送事業者と上手く付き合えない可能性があります。
人手不足が続く運送業界の中で、自社の価値を理解してくれない荷主との付き合いを見直す事業者も増えつつあります。
価格重視で運送事業者を選んでいると、荷物を粗末に扱われたり、希望した時間に届かなかったりするかもしれません。
運送パートナーを失う可能性も
さらに運送事業者と価格交渉に成功しても、運送事業者の経営が上手くいかなくなれば運送のパートナーを失う可能性もあります。
一時的にコストの削減に成功しても、将来的な経営にマイナスになるでしょう。
荷主は価格だけでなく、運送事業者がどのような価値を提供しているのか考えて対応しないといけません。
コスト削減ではなく、あえてコストを掛けても荷主に新しい価値を提供してくれるよう運送事業者に働きかける必要があるでしょう。
輸送における法的規制とは?
輸送における法的規制には、以下の4つの法律があります。
- 消防法
- 高圧ガス保安法
- 火薬類取締法
- 毒物及び劇物取締法
それぞれをみていきましょう。
消防法
可燃性の化学物質をはじめとする危険物を輸送する際、消防法に従わなければなりません。
消防法では、
- 火災が起こる可能性が高い
- 燃焼速度に懸念がある
- 消火が難しい物品
などを規制しています。
危険物を運送する際は、容器の材質や構造などが定められています。
さらに極力摩擦を起こさないように運搬しないといけません。
なお海外からの危険物を運送する際は、国連勧告の基準に合った運搬容器を使用していると消防法に適合していると認められます。
消防法に従い、適切に危険物を運送する必要があるでしょう。
高圧ガス保安法
高圧ガス保安法は、高圧ガスを移動させる際に関連する法律です。
高圧ガス保安法第23条(移動)では、運搬の際に使う容器や規定が細かく決められています。
例えば容器の温度は40度以下に保つ必要があり、15年を過ぎた複合容器は処分しなければなりません。
使用できる車両
使用できる車両も、法令に基づいて整えられた専用車である必要があります。
小型車を利用する場合は、運転席の屋根には両面に 「高圧ガス」の標識を掲げなければなりません。
毒性の強いガスを運送する際には、ガスの詳細を記載したイエローカードを掲載して、万が一のトラブルに備えます。
高圧ガスを運搬する際には、高圧ガス保安法への理解が求められるでしょう。
火薬類取締法
火薬類取締法上では、決められた数量を超える火薬量を輸送する際に運搬証明書の交付を受けるように定めています。
火薬類取締法上、18歳以上になってから火薬類の取り扱いができます。
具体的には?
さらに火薬類を運搬する際は、分かりやすい標識を掲示しないといけません。
昼間は赤字に火と書かれた掲示板を掲げる日があります。
夜間には火の部分に反射板を掲げ、150メートル以上の距離から確認できる光度の赤色灯を掲げないといけません。
運送中には転落しないようにし、火薬箱の近くでタバコを吸ったり、火を使ったりすることはさけましょう。混雑している場所をさけたルートで運搬し、火薬箱の種類によってはイエローカードの携行もおこないます。
毒物及び劇物取締法
毒物及び劇物取締法において、以下の運搬では業務上取扱者の届出と毒物劇物取扱責任者を設定する必要があります。
- 総容量が1000L以上の容器を大型自動車で運搬する
- 四アルキル鉛を含有する製剤を200L以上の容器で運搬する
- 5000kg以上のタンクローリーで積載する
運搬する際は、毒物や劇物の蓋や弁を密閉する必要があります。
さらに万が一のトラブルに備えて、2人分以上の保護具を揃えておかないといけません。
運転手の連続運転は4時間以内、1日の運転時間が9時間を超えないように交替運転できる人を同乗させる決まりです。
黒地に白文字の板に毒と表示した標識を、車両の前後の分かりやすい場所に掲示する必要もあります。
運送業の現状とは?
運送業の現状は、以下の5つが挙げられます。
- 輸送費の低価格化
- 人材不足
- エネルギー価格の上昇
- 利益率の低下
- デジタルを活用した業務効率化の遅れ
輸送費の低価格化
輸送費は、低価格化が続いています。
輸送費や保管費のコスト削減を強く求める荷主も、少なくありません。
しかし輸送費の低価格化競争に負け、事業が立ちゆかなくなる運送業者も多いです。
輸送費の低価格化は、業界のサービスの質にも関係します。
コストだけを追求していては、運送業界全体の元気がなくなってしまうでしょう。
人材不足
運送業は、慢性的な人材不足が続いています。
人材不足である理由は、以下の6点が挙げられます。
- 長時間労働であること
- 給料が安いこと
- 男性の仕事というイメージが強いこと
- 仕事が単調であること
- 社会的な評価が高くないこと
- 交通事故に巻き込まれる可能性があること
今後も慢性的な人材不足が続くと考えられ、業界全体で人材の確保が急務となっています。
さらに2024年には、働き方改革関連法によりドライバーの労働時間に上限が設定される予定です。
ドライバーは収入が減少し、会社の売上も下がる可能性があります。
荷主側は、運賃が上昇する可能性があります。
エネルギー価格の上昇
エネルギー価格は、上昇を続けています。
ロシアのウクライナ侵攻を受けて、軽油などの原油価格は不安定な状態になっています。
軽油価格が1円でも上がると、業界全体に大きな損害を与えかねません。
燃料価格上昇分を運賃に転嫁するのは難しく、厳しい状況が長く続いています。
エコドライブの導入も
ドライバーのエコドライブに対する理解を深めたり、燃費のよい車両を導入したりする運送事業者も多いです。
ただしエネルギー価格の不透明さは長期化しており、運送事業者単独の対応策だけでは対応するのが難しい段階まできています。そのため政府が荷主へ直接働きかけをおこない、運賃の見直しを求める例も出てきました。
エネルギー価格の上昇は、今後も業界全体の重しになる可能性があります。今後、荷主と運送業者が協力してのさらなる対策が必要になってくるでしょう。
利益率の低下
運送業は、利益率が低下傾向にあります。
利益率の低下は
- 長引く人材不足
- 運賃交渉の困難さ
- 燃料高騰
- 物流コストの上昇
などが複雑に関係しています。
さらに一度事故を起こすと、経営を悪化させるリスクもあります。
利益率を向上させるには、荷主の協力を得ながら労働環境を改善してドライバーの確保が必要です。
効率的な配送をおこなうには、どうすればよいのかを見直す必要があるでしょう。
デジタルを活用した業務効率化の遅れ
運送業界は、デジタルの活用が遅れているといわれています。
中小企業が多い運送業界は、どうすればIT化がすすめられるのか分からないという会社も少なくありません。
しかしデジタル活用は業務改善につながり、人手不足を解消する可能性が高いです。
AIを導入してサービスを変える物流DX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が叫ばれています。
物流DXの事例とは
実際にAIやドローンを使った無人輸送を検証する動きも出てきました。
物流倉庫のアウトソーシングをおこない、業務のIT化をすすめた企業も多いです。
今後デジタルが運送業界を救う可能性もあるため、中小企業であってもデジタルの活用は必須といえるでしょう。
荷主も、パートナーの運送業者がスムーズにデジタル化できるようにサポートが求められます。
荷主について理解しよう
この記事の結論をまとめると
- 荷主とは商品の輸送や保管を輸送業者にお願いしている人
- 省エネ法における特定荷主の義務は貨物の輸送届出書の提出や中長期計画の作成などが挙げられる
- 荷主会社となるのは荷物の発送を依頼した会社
- 運送において荷主は価格だけでなく価値を重要視する必要がある
- 輸送における法的規制は消防法や高圧ガス保安法などに従わなければならない
- 輸送法における法的規制は複数ある
- 運送業の現状は厳しく慢性的な人手不足が続いている
荷主は運送業者をパートナーとして取り扱い、運送員視点に立った対応が求められます。
今回の記事を参考にして荷主について理解を深めてみてください。